加藤卓男 略歴

三彩貼花文手付花入

1917（大正6）年9月12日、江戸時代から続く美濃焼 窯元 五代目加藤幸兵衛の長男として、岐阜県土岐郡市之倉村（現、多治見市市之倉町）に生まれる。
1935（昭和10）年岐阜県立多治見工業学校（現、多治見工業高等学校）を卒業後、京都の商工省陶磁器試験所に入所。
1937年同試験所終業後、帰郷し家業の福寿園丸幸製陶所（現、幸兵衛窯）に勤務するが、翌1938年より従軍。
転属先の広島市で残留放射能により被爆し、その後10年ほど入退院を繰り返す生活を余儀なくされたが、1954年第10回日展に「黒地緑彩草花文花瓶」を出品し初入選。
1961年 陶磁器 意匠と技術の交換のため、フィンランド政府の招聘を受け、フィンランド工芸美術学校に留学。
そこから休暇を利用して、はじめて中東各地の 陶器 の産地、イランの窯址を訪れ、そこで古代ペルシア陶器の美に触れ、ペルシャ 陶器の研究に尽力するようになる。
研究のため訪れた中東の古窯址発掘現場で、織部に似た陶片を発見して以来、ペルシア陶に魅せられ、ペルシアから日本へと広がる壮大なやきものの技術交流と発展史へと興味を広げた。
帰国後は本格的にペルシア陶、なかでもラスター彩の研究を志すようになった。
ラスター彩とともに同じペルシア系統の青釉の制作にも取り組み、独創的なフォルムと鮮やかな青色が融合した作品を作陶していった。
1963年第6回新 日展 に出品した「花器　碧い山」が特選北斗賞を受賞、翌1964年には第3回日本現代工芸美術展で「流」が現代工芸賞を受賞。
1965年第8回日展で「油滴花器　煌」が再び北斗賞を受賞。
作家活動の一方で続けていたペルシア陶研究の成果は、昭和50年代に自身のラスター彩作品として結実。
ラスター彩とは光を受けると多彩な 釉薬 が玉虫色に輝く事が特徴的で世界中で珍重された陶器の事。
その誕生は9世紀頃のメソポタミアといわれ10世紀頃のペルシャで盛んに作られた。
しかし、13世紀のモンゴル侵入を境にしだいに衰退していき、17世紀頃には完全に消滅した事から「幻の陶器」と呼ばれている。
加藤卓男はラスター彩の復元に成功し、幻となってしまったラスター彩と日本の文化を組み合わせた作品を数々生み出した。
1980年には宮内庁 正倉院 事務所より正倉院三彩の「三彩鼓胴」と「二彩鉢」の復元制作を委嘱され、約7年間におよぶ研究と試作を経て復元に成功する。
この経験と技術を生かし、自身の創意による 三彩 の仕事にも取り組んだ。
1988年紫綬褒章受章、1995（平成7）年重要 無形文化財「三彩」の保持者に認定された。
古代のペルシア陶の技法を解明、再現することにとどまらず、作家として、古陶磁研究を自己の表現の手段として昇華させ、清新な現代の 陶芸 を創造した点で高く評価される。
朝日陶芸展をはじめとして国際的なコンペティションでたびたび 審査員 を務め、陶芸界のリーダー的存在として果たした役割も大きい。
トルコ、イスタンブールの国立トプカプ宮殿博物館（1986年）をはじめ国内外で開催した 個展 多数。
2002年4月1日から30日まで「日本経済新聞」に、「私の履歴書」を連載
（「砂漠が誘う―ラスター彩遊記」日本経済新聞社、2002年加筆所収）、作品集に「ラスター彩陶　加藤卓男作品集」（小学館、1982年）がある。
2005年（平成17年）1月11日午前11時45分、肺炎のため岐阜県多治見市の病院で死去、享年87。
没後、岐阜県現代陶芸美術館で回顧展「加藤卓男の陶芸展―陶のシルクロード」（2006年）が開催された。
ラスター彩をはじめ青釉、奈良三彩にペルシア 色絵 などの制作で広く知られている重要無形文化財保持者の 陶芸家。

加藤卓男の主な出来事や作品の年表

1917年 岐阜県多治見市に生まれる。父五代目加藤幸兵衛に 師事。
幼い頃より父の影響がもあり次第に 陶芸 の魅力に惹かれていく。
1935年 岐阜県多治見工業学校（岐阜県立多治見工業高等学校）卒業。
卒業後は、京都国立 陶磁器 研究所陶芸科にて研修を受け、陶芸を学ぶ。
卒業後、帰郷し家業の幸兵衛窯に勤務する。
1938年 陸軍に入隊。数年間戦地で過ごす。
1945年 徴兵された広島市で被爆。白血病を発症し約10年間、闘病生活を送る。
1954年 この頃体調も回復し、第10回日展に「黒地緑彩草花文花瓶」を出品し初入選をする。
1961年 陶磁器意匠と技術の交換のため、フィンランド政府の招聘を受けフィンランド工芸美術学校留学。
そこから中東各地の 陶器 の産地、イランの窯址を訪れ、そこで古代ペルシア陶器の美に触れ、研究に尽力した。
帰国後は本格的にペルシア陶器、なかでもラスター彩の魅力に惹かれ、研究を始め、ラスター彩とともに同じペルシア系統の青釉の制作にも取り組み、 独創的なフォルムと鮮やかな青色が融合した作品を作陶していく。
1973年 旧イランのパーレビ王立大学付属アジア研究所留学。
25年という歳月をかけ、2度の留学をしてイラン国立考古博物館の発掘調査や、東京大学イラン・イラク遺跡発掘調査団の現地発掘調査に参加。
試行錯誤を重ね、17世紀から途絶えていたペルシア陶器ラスター彩の再現に成功。
ラスター彩とは光を受けると多彩な 釉薬 が玉虫色に輝く事が特徴的で世界中で珍重された陶器の事。
その誕生は9世紀頃のメソポタミアといわれ10世紀頃のペルシャで盛んに作られた。
しかし、13世紀のモンゴル侵入を境にしだいに衰退していき、17世紀頃には完全に消滅した事から「幻の 陶器」と呼ばれている。
1980年 宮内庁より 正倉院 三彩 の復元制作を委嘱され、成功する。
1983年 多治見 無形文化財 保持者及び岐阜県重要 無形文化財 保持者。
1986年 トルコ・トプカプ宮殿美術館にて 個展。
1988年 紫綬褒章を受章。
1991年 日本陶磁協会金賞。
1992年 伊勢神宮の御神宝「陶猿頭形御硯」を制作。
1995年 5月31日、重要無形文化財「三彩」保持者（人間国宝）認定。
1996年 岐阜県名誉県民の称号を受ける。
2005年 1月11日、87歳没。故人として織部賞の特別賞を 受賞。
2006年 岐阜県現代陶芸美術館で回顧展「加藤卓男の陶芸展―陶のシルクロード」が開催された。

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